社会保険労務士法人アーリークロスの社労士ブログ
だんだんと暖かくなってきましたが、いかがお過ごしでしょうか?(とにかく今年は花粉がすごいですね…)
今回は、「副業・兼業(ダブルワーク)に関する労務知識」をテーマに取り上げます。
ダブルワークをされる方も、ダブルワークしている方を雇用する事業主の方も、是非ご確認ください。
さて、労働保険や社会保険は、「適用事業所で従業員が要件を満たしたら加入」というのはご存知の方が多いかと思いますが、その従業員が複数の会社で働いていたら保険関係はどうなるでしょうか?また、労務管理上、どんなことに気を付けなければならないでしょうか?
即答できない!という方もいらっしゃるかもしれません。
というのも、近年までは副業や兼業(以下、「ダブルワーク」)が今より規制されていたり、「1つの会社で、長い時間、長い期間働くのが当たり前」というような風潮があったりして、「複数の会社で社会保険に加入する」という状況があまり見られなかったのです。
「複数の事業所で働く従業員」がいる場合に、労務面で気を付けることは次のとおりです。
(※以下では、ダブルワークにより給与所得のみを得ている場合について解説いたします。事業所得を含む場合は以下とは異なりますのでご注意ください。)
①労災保険
本業・副業関係なく対象となります。
通勤災害や業務災害により、保険給付を受ける場合は、労災が発生した会社以外の賃金も給付基礎日額の基礎となります。(つまり、A社とB社で勤務していて、A社で労災が発生したためにしばらく働けなくなった場合、A社から受けていた賃金額だけをベースにして補償されるのではなく、A社とB社の合計賃金額をベースにして補償される、ということです。)
②雇用保険
複数の会社に所属してそれぞれで要件を満たしても、1箇所でしか加入できません。
主たる賃金を受ける方で資格取得となります。本人や会社が選択できるものではありません。
注意が必要な例を1つ紹介します。
従業員Cさん:E社でのみ勤務
従業員Dさん:E社と、そのグループ会社であるF社でも勤務
賃金の合計額はCさんもDさんも同じ。2人ともE社で雇用保険加入
実はこの場合、同じ条件で離職したとして、雇用保険の基本手当(いわゆる「失業給付」))は、Dさんの方が少なくなってしまうのです。
それは、Dさんが「E社でしか雇用保険に加入できていない」ためです。
このように、従業員が不利になってしまうこともあるため、グループ内での兼業については注意するべきです。
また、グループ内での兼業ではなくても、ダブルワークをする場合には自分自身が不利になることもあると認識しておく必要があります。
③社会保険
それぞれの会社で加入要件を満たしている場合、それぞれで加入となります。
さらに、加入手続きと併せて、「社会保険の二以上勤務届」の提出が必要となります。
この二以上勤務届を提出することで、複数の会社で社会保険料が按分されます。
詳細は後述します。
④勤怠管理
副業をしていても、法定の労働時間は1日8時間、週40時間が基本です。
従業員本人から、ダブルワークをしている申し出があった場合には、他の就業先の名称や事業内容、雇用形態、週の所定労働時間等をヒアリングしておく必要があります。
また、複数の会社での勤務時間を合計して法定外時間かどうかを判定するため、自社で1日8時間を超えていなくても、残業代を支給しなくてはならなくなる例もあります。
⑤所得税の源泉徴収
「甲欄」「乙欄」という言葉を聞いたことはありますか?
これは、所得税の源泉徴収の区分に使用するもので、副業・兼業をしていない人は基本的に「甲欄」の適用となります。
ただし、この「甲欄」適用は1箇所でしかできず、既に他社で「甲欄」の適用を受けている人は「乙欄」となりますのでご注意ください。(説明として、「「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出していたら甲欄、提出していなければ乙欄」と言われることがありますが、扶養控除申告書は1箇所でしか出せないため、「甲欄」適用は1箇所でしかできない、ということになります。)
以上のような点に注意が必要です。
以下では、③に登場した「社会保険の二以上勤務届」について解説します。
この届出は、同時に複数の事業所に勤務することとなった場合に、従業員本人が「選択事業所」「非選択事業所」を指定した上で行わなければなりません。(実際は、選択事業所を経由して提出となります)
Q.提出しなかったらどうなるの?
A.それぞれの事業所で標準報酬月額を算出するため、提出しなかった場合と比べて社会保険料が高くなってしまいます。提出することで、複数の事業所での合計額を元に按分されます。
Q.選択事業所はどう選べばいいの?
A.ルールはありません。選択事業所とした事業所名で健康保険証が発行されます。
Q.事業所は何をしたらいいの?
A.二以上勤務の方について、以下の点にご注意ください。
・保険証が差替えとなる(後から届いた方を使用し、古いものは返却)
・社会保険関係の通知書が、他の従業員とは別で届く
・電子申請をしても、紙で通知が届く
・事業所番号が新たに発行される
・二以上勤務の方の分だけ、納付書が別で届く
・口座振替をしている場合は、新たな事業所番号に紐づける形で口座振替依頼書の提出が必要
・対象者の社会保険の手続きの際には「二以上勤務」にチェックを入れる
該当の方がいる場合には年金事務所から届く書面に注意しておきたいところです。
いかがでしたか?ダブルワークの注意点、意外とありますよね。
従業員がダブルワークをしているけど、どうしたらいいか分からない!という相談にもご対応可能ですので、お気軽に社会保険労務士法人アーリークロスまでお願いいたします!