社会保険労務士法人アーリークロスの社労士ブログ
こんにちは!福岡市にあります社会保険労務士法人アーリークロスです。
今回は、「賃金の現物支給」について解説します。
突然ですが、「賃金支払の5原則」をご存知ですか?
労働基準法第24条において、以下の5つが定められています。
1)通貨で支払う
2)直接労働者に支払う
3)全額を支払う
4)毎月1回以上支払う
5)一定の期日を定めて支払う
賃金は「通貨」で支払うことが原則となっていて、これは「貨幣経済の支配する社会において最も有利な交換手段である通貨による賃金支払を義務付け、これによって、価格が不明瞭で換価にも不便であり、弊害を招くおそれが多い実物給与を禁じたもの」です。
確かに、「今月の給料はお米〇キロね!」なんて言われても困ってしまいますよね。
通貨以外の方法での賃金支払
賃金は通貨での支払が原則ですが、以下に該当するものについては通貨以外の方法で支払うことができます。
1)法令に別段の定めがある場合
2)労働協約に別段の定めがある場合
3)厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合
3)に該当するのが、銀行口座への振込となります。賃金を現金で直接手渡しする会社は昔より少なくなりましたよね。毎月の給与が当たり前のように銀行口座へ振込まれているのも、実は「通貨払の原則の例外」として認められているからなのです。
ではお金以外の「物」で賃金を支払う場合はどのようにすれば良いのでしょうか?
2)に定められているように、労働協約を締結する必要があります。「労働協約」とは「労働組合と使用者(の団体)との間で、組合員に共通する労働条件の基準や組合と使用者との基本的関係について結ぶ、文書による取り決め」のことを言います。
つまり、労働組合の無い会社では労働協約を定めることが出来ないため、通貨以外の方法で賃金を支払うことは出来ません。
通貨以外の方法①(デジタル払い)
2023年4月以降、厚生労働省が指定した資金移動業者(●●Payなど)の口座への振込が認められることになりました。
キャッシュレス化の普及に対応したものですが、これを行うには労使協定の締結や個々の労働者の同意等が必要になります。
詳細はこちら
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001065931.pdf
通貨以外の方法②(労働協約に別段の定めがあるもの)
労働協約を締結し、「通貨以外のもの」として支給される代表的なものが「食事・住宅(社宅など)・被服」になります。
ただし、支給の方法や目的によっては、「賃金」に該当しない場合もありますので注意が必要です。
【労働基準法・労働保険】
労働保険現物給与制度の概要:
賃金 | 賃金でない | |
食事 | ・住み込み労働者で1日2食以上 ・福利厚生の要件に該当せず、労働者からの徴収額が3分の1未満 | ・次のすべてに該当する場合は福利厚生費とする。 ①賃金の減額を伴わない ②明確な労働条件の内容となっていない ③客観的評価額が社会通念上僅か ・賃金とする要件に該当するが、労働者より代金を徴収し、その額が実際費用の3分の1以上 |
住宅 | 原則賃金では無いが、以下に該当する場合は賃金 ・社宅の貸与を受けない従業員に定額の均衡手当が支給されている | ・労働者より代金を徴収し、その額が実際費用の3分の1以上 |
被服 | ・業務着用目的でなく提供されている。 | ・業務着用目的で提供されている ・業務着用目的では無いが、労働者より代金を徴収し、その額が実際費用の3分の1以上 |
こちらの内容は労働基準法および労働保険における「賃金」の定義であり、同じ現物支給でも社会保険上の取扱いは異なります。
【社会保険】
社会保険現物給与価額一覧表:
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20150511.html
賃金 | 賃金でない | |
食事 | ・労働者より代金の徴収がない ・徴収額が厚生労働大臣が定める現物給与の価額の3分の2未満 | ・厚生労働大臣が定める現物給与の価額の3分の2以上を徴収している |
住宅 | ・原則賃金 | ー |
被服 | ・原則賃金ではないが、業務着用目的でない場合は賃金に該当する。 | ・業務着用目的で提供されている |
賃金として取り扱われる「範囲」「額」がそれぞれ異なります。また労働者にかかる個人所得税の課税対象の範囲についても異なった定めがあるため、現物支給を行う場合は十分に注意が必要です。
今回は「食事・住宅・被服」について詳しくお話しましたが、他の「物」でも現物支給の賃金に該当したというケースもあります。
・社内レクリエーションで景品を渡した
⇒この「景品」も高額なものや商品券等金銭に類するものである場合、もしくは、その年度の業績に応じて選出された人だけが受け取れるようなものである場合は「賃金」とみなされます。
・会社の商品を社員割引価格で販売した
⇒割引率等や商品価格とのバランスに応じて賃金に該当することがあります。
「労働者のために、お金だけでなく様々な形で還元してあげたい」という優しい事業主様も多いです。ですが、誤った認識により本来納付すべき保険料や税が未納になってしまったというトラブルも少なくありません
賃金は「正しい方法」「正しい計算」で支払うことがとても重要です。
ぜひ社会保険労務士法人アーリークロスを活用しませんか?正しい計算だけでなく、賃金の設計や規程の見直しまでお手伝いさせていただきます。
また、同グループの税理士法人もございますので、税の「プロ」からのサポートもワンストップで受けることが可能です。
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お読みいただきありがとうございました。
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